ハーバード大学教育大学院教授カート・フィッシャーが提唱したダイナミック・スキル理論は、近年、教育現場や企業組織において広く活用され始めています。
カート・フィッシャーの共同研究者であったセオ・ドーソンとフィッシャーの弟子たちによって設立された、米国のレクティカという組織は、FBIやCIAといった国家機関をはじめ、様々な企業組織にダイナミック・スキル理論に基づいた発達測定サービスを提供しています。
レクティカは、ダイナミック・スキル理論を実務の世界でより有効に活用できるように、LAS(Lectical Assessment System)という独自の測定システムを開発しました。そして、このLASに基づいて、異なる焦点や目的を持つ数多くの発達測定手法が開発されています。
代表的なものは、LDMA(Leadership Decision Making System)と呼ばれる発達測定です。LDMAは、組織のリーダーが意思決定の際に発揮する様々なスキル・セット(視点取得能力、共同能力、論理思考能力など)の発達レベルを詳細に測定するものです。LDMAは、主に企業における人材開発や人材マネジメント、特にリーダーの育成・管理に対する社会からの要請に応じる形で誕生しました。
現在のビジネス社会を見渡してみると、性格類型テストや360度評価などの測定手法が存在しています。確かにこれらの測定手法はリーダーの性格や行動特性を明らかにしてくれます。しかし、それらの測定手法で可能なのは、リーダーの行動特性や性格類型を分類することであり、リーダー各人が持つリーダーシップ能力の「高さ」や「深さ」を測定することはできません。
つまり、既存のアセスメントは、リーダーの行動や性格の裏に隠された構造を明らかにしてくれないということです。実際には、リーダーの行動を生み出す深層的な構造というものが存在しており、それは発達心理学の世界において「認知構造」と呼ばれます。LDMAは、そうした深層的なリーダーシップ能力の源泉を解明するのです。
リーダーが 組織運営上の問題に直面した時に、その対処方法にはパーソナリティのタイプだけではなく、その人が持つ深層的な世界観・認識の枠組みが関係しています。そうした世界観・認識の枠組みは心の発達と共に複雑性を増し、深まりを見せます。残念ながら既存のアセスメントでは、認知構造の複雑性を測定することができません。
言い換えると、既存の測定手法は行動パターンの分析に終始してしまうため、問題発見能力の深さ、問題解決能力の深さ、チームをまとめあげる能力の深さなどを見落としているということです。そうした状況を打破するべく、レクティカはLDMAという発達測定手法を世に送り出したのです。
【追記:LDMAの形式】
私がレクティカという組織で研究者としてインターンをしている時に、LDMAを受けることが要求されていました。アセスメントは記述形式で実施され、コンピューター上で全ての回答を行います。
アセスメントの内容は、コンピューターの画面上に一つのケースが与えられ(例えば、企業組織の中で起こっている人間関係の問題など)、ケースに準じて設問が5つほど設けられています。
これら一つ一つの質問はリーダーとしての意思決定能力に付随するサブスキル(例えば、問題発見能力や共同能力など)に対応しています。つまり、一つの設問に回答すると、あるサブスキルの認知構造レベルが明らかになります。
現在、アセスメントは英語でしか受けられませんが、参考までにLecticaのウェブサイトを紹介しておきます。