発達理論の講演をする際や発達理論のレクチャーをする際に、学習者の方からよく寄せられる質問として、「自分よりも意識段階が高い人の発達測定をすることはできますか?」というものがあります。この質問は、発達測定に従事する者にとって大事な点を含んでいると思います。
自我の研究で優れた功績を残したジェーン・ロヴィンジャーはこの質問に対して、Noと述べています。実際にロヴィンジャーは、「発達測定を行う際に、自分よりも意識段階が高い回答を正確に分析することはできない」と述べています。つまり、ロヴィンジャーは、発達段階が自分よりも高い人の測定を行うことはできないということを主張しています。
それに対して、私の回答は、Yes & Noです。すなわち、自分よりも高次の発達段階を分析することは可能でもあり、条件によっては困難(あるいは不可能)でもあるということです。具体的には、ロヴィンジャーが開発した「文章完成テスト」にせよ、その他の発達測定手法にせよ、信頼できる発達測定手法には基準の明確な分析マニュアルが存在しています。
発達測定のトレーニングを数年間しっかりと積み、分析マニュアルに沿って測定を行えば、自分よりも高次の発達段階について分析することは実務上可能であるため、Yesとしました。
しかし、ロヴィンジャーが述べるように「No」の側面があるのも否定できません。簡潔に述べると、言語で語られた発話内容の裏に隠された言語構造を読み解き、発達構造を解釈するために求められる認知レベルが存在するのも確かです。
ピアジェの段階モデルで言えば、測定者は優れた形式論理思考を持っているか、理想としては後形式論理思考を兼ね備えておく必要があると思います。このように最低限の認知レベルがなければ、言語で表現された内面世界に立ち現れる意識構造を掴み取ることはできないと言っても過言ではありません。
さらに、ロバート・キーガンが産み出した「主体・客体インタビュー」というインタビュー形式の発達測定手法であれば、なおさら測定者には高度な認知レベルが要求されます。インタビュー中は、回答者の話を聞きながら、意識レベルに対する仮説を立て、仮説を検証するための質問を次々に投げかけていかなければなりません。
つまり、キーガンの主体・客体インタビューでは、刻一刻と進むリアルタイムなインタビューの場の中で、相手の意識構造を理解しながら、それを確認する質問を投げかけていくという芸当が求められます。
結論としては、発達理論を数年間徹底して学び、特定の発達測定手法のトレーニングをしっかりと積み、高度な認知レベルを獲得することができていれば、発達測定は実務上どなたでも行うことができると思います。