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114. 新ピアジェ派の貢献:後形式論理思考の特性


前回の記事は、新ピアジェ派が具体的にどのような点において、ピアジェの理論を発展させたのかを紹介しました。前回の記事で全てを網羅することができなかったので、今回の記事も引き続き、新ピアジェ派がどういった点において、ピアジェ派の理論を拡張させたのかを紹介したいと思います。

前回紹介し切れなかった点を最初に列挙しておくと、(1)ピアジェの「形式論理思考」を拡張させ、「後形式論理思考(post-formal operational thinking)」を提唱し、研究対象を成人まで拡張させたこと、(2)文脈のもたらす影響や他者からの支援の役割に着目したこと、(3)認知構造における個人差を考慮に入れ始めたことが挙げられます。

まず新ピアジェ派は、研究対象を子供や青年だけではなく、成人にまで拡大させました。古典的なピアジェ理論においては、およそ11-12歳あたりで芽生え、その後15歳あたりで成熟する「形式論理思考」を認知的発達の最終地点としていました。

それに対し、新ピアジェ派は、形式論理思考を認知的発達の最終地点とせず、さらに高度な思考形態を発見したのです。特に、ロビー・ケース、マイケル・コモンズ、カレン・キッチナーなどが代表的な研究者であり、彼らは形式論理思考の「後」に現れる、より高度な思考形態を「後形式論理思考(post-formal operational thinking)」と名付けました。

私自身、ジョン・エフ・ケネディ大学の大学院にいたころ、特に成人以降に芽生える「後形式論理思考」に関する研究を熱心におこなっていました。特に私が着目していたマイケル・コモンズやカレン・キッチナーは、後形式論理思考に関する優れた論文を数多く執筆しており、形式論理思考を超えた高度な思考形態の特徴を学習する上で非常に参考になります。

後形式論理思考と一言で述べても、実際は研究者によって、さらに二つの段階を提唱していたり、三つの段階を提唱していたり、あるいはそれ以上の個数の段階を提唱している場合などがあります。そのため、一括りにその特徴を述べることは困難です。大雑把にその特徴を述べると、後形式論理思考を獲得することによって、思考はより柔軟になり、様々な視点や文脈を捉えることを可能にし、動的かつ複雑な現象を捉えることが可能になります。

新ピアジェ派のアプローチや段階区分は、研究者により異なりますが、下記の二つの考え方は共通しています。まずピアジェは、形式論理思考は複数の抽象的な概念を組み合わせて「システム的」に思考することができると認識していましたが、実際のところ、形式論理思考を超えた高度な思考形態において、単純に複数の概念を組み合わせてシステム的に思考するだけではなく、そうした思考そのものを内省の対象とすることができます。このような思考の在り方を、新ピアジェ派は「メタシステム思考」と呼んでいます。

次に、ピアジェは「認知的な発達とは、自分の思考と自己とを区別していく脱同一化のプロセスである」と述べています。新ピアジェ派もこの考え方に賛同しています。しかし、新ピアジェ派は、思考と自己を区別することは、複雑な思考の最終地点ではないと述べています。

具体的には、後形式論理思考の研究者ギセラ・ラボーヴィ・ヴィエフが指摘しているように、後形式論理思考を獲得し始めると、自分の思考を観察できるだけではなく、自分の思考そのものを生み出している前提条件まで内省の対象とすることができるようになってきます。

その結果として、高度な思考形態を持つ成人は、抽象的で複雑な現象を理解し、思考対象として自らの思考内容を内省できるだけではなく、自らの思考を生み出す前提条件そのものを思考したり、複雑な現象と自己との関係性までも思考することができるようになるのです。

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