前回の記事では、新ピアジェ派が古典的なピアジェ思想のどういった点を引き継いでいるのかについて、主な点を5つほど紹介しました。今回の記事は、新ピアジェ派がピアジェ思想のどういった点を発展させたのかについて紹介したいと思います。
最初の点は、新ピアジェ派はピアジェよりも厳密に学習と発達の関係性に焦点を当てたことにあります。古典的なピアジェ理論において、発達とは、既存の認知構造の「変容」あるいは「調節(accommodation)」とみなされていたのに対し、学習は新たなコンテンツを既存の認知構造に取り入れる「同化(assimilation)」とみなされていました。
しかし、近年の研究は、学習と発達に関するそのような単純な区別は適切ではないとしています。なぜなら、学習は新たなコンテンツを既存の認知構造に取り入れるということを超えて、認知構造の発達に影響を与えるからです。言い換えると、学習そのものが認知構造の変化と密接に関わっているため、学習と発達に関する古典的ピアジェ派の区別は、ふさわしくないと言えます。
そのため、新ピアジェ派は、学習と発達の動的な関係を特定することに焦点を当て、発達を促進させる条件は何かを特定する探求をおこなっています。
二点目は、新ピアジェ派は認知構造を局所的なもの、つまり領域特定的なものとみなしていることにあります。古典的なピアジェ理論では、「段階(stages)」という概念を領域全般的な「全体構造」と認識していました。しかし、ピアジェは後年になって、発達プロセスは認知構造全体に生じるものではなく、領域固有の下位構造の中で生じるものであると指摘していました。
こうしたピアジェの後年の考え方を受け継ぎ、新ピアジェ派は、発達を領域全般的なものとみなさず、下位構造の中で生じる局所的な現象であるとしました。例えば、ハワード・ガードナーが提唱している「多重知性理論」なども発達を局所的な現象とみなす発想に由来していると言えます。
私たちは様々な発達領域の中を生き、優れている領域もあればそうでない領域もあるのは、こうした発達現象の局所性によります。
ピアジェは、個人の認知構造の中に見られるそうした発達的な偏りを「水平的な溝」と名付けました。新ピアジェ派は、こうした「水平的な溝」は動的な発達現象の本質であるとして、好意的に受け取り、さらなる探求をしています。
二点目の結論として、仮に成人以降の教育やトレーニングに従事するのであれば、学習者がどの領域に長けていて、どの領域に改善の余地があるのかという発達の局所性を適切に理解しておく必要があります。
最後の点は、先ほどの「水平的な溝」という現象に付随して、「垂直的な溝」に関する考え方です。水平的な溝が様々な領域間における認知構造レベルの差異であるのに対し、垂直的な溝は同一発達領域内における認知構造レベルの差異を表します。
例えば、タスクの構造自体は同じであるのに、タスクで要求されるレベルが異なると、そのタスクをこなすことができなくなってしまうことがあります。
より具体的には、ある地点から別の地点に行くのと、ある地点から別の地点への道順を描くのは、同一のタスク構造であるにもかかわらず、後者の方がタスクレベルが高度であるため、具体的操作段階に至らないとそのタスクをこなすことができません。こうした現象のことを発達構造内における「垂直的な溝」と呼びます。
新ピアジェ派の貢献は、この「垂直的な溝」のメカニズムを解明したことにあります。例えば、新ピアジェ派の代表格であるロビー・ケースやカート・フィッシャーは、一つの段階(レベル)に幾つかの主要な下位段階(レベル)が存在し、それらは主要な段階において繰り返し現れる連続的なサイクルであることを発見しました。
より詳しくは、以前紹介した「18. ダイナミックスキル理論における4つの階層構造と13個の段階とは?」を参照ください。