発達測定の歴史を概観してみると、これまで様々な発達理論家が測定手法の開発をおこなっていたことに気づきます。私たち人間は、様々な発達段階を経て成長していくという考え方が提唱されて以来、発達心理学者たちは、こぞってそれらの発達段階を特定・分析するフレームワークを構築することに勤しみました。
ジェームズ・マーク・ボールドウィンを始祖として、発達心理学の歴史は切り開かれたと言って過言ではなく、ボールドウィンの影響を受けたジャン・ピアジェの理論を始め、発達という現象を説明する理論モデルが20世紀の間に数多く誕生しました。ピアジェの理論は、全ての発達段階を明瞭に記述してはいませんが、その理論は、発達過程に一つの普遍的な道筋が存在することを指摘しました。
ピアジェの理論はさらに、普遍的な発達プロセスは、文化的な差異に関わらず見られる現象であるとしています。他の発達理論モデルは、このようなピアジェの理論モデルを受け継ぎ、様々な発達領域の中でも特定領域の発達に焦点を絞って研究をおこなう動きが見られるようになりました。
例えば、ローレンス・コールバーグなどは代表的な研究者であり、彼はモラルの発達という一つの発達領域に絞って理論モデルと測定手法を開発しました。こうした領域特定的な研究は、発達理論の分野に多大な貢献を残しましたが、往々にしてそれらのアプローチは、発達現象に根底に存在する共通のプロセスを特定するという所にまで議論が及びませんでした。
こうした流れを受けて、幾人かの研究者たちは、単に特定領域の発達パターンを発見するのではなく、全ての発達領域に共通する普遍的な発達パターンを特定しようと試みるようになりました。こうした試みをおこなったのが、ダイナミックスキル理論を提唱したカート・フィッシャーであり、複雑性階層構造モデルを提唱したマイケル・コモンズです。
つまり、彼らの発達測定手法に共通なのは、ある一つの発達領域における発達プロセスを分析することを目的としておらず、全ての発達領域に共通する発達パターンを計測する点にあります。簡単なイメージとしては、コールバーグを始めとする領域特定型の発達測定手法は、一つの物差しを用いて一つの発達領域を測定するのに対し、フィッシャーやコモンズの領域全般型の発達測定手法は、一つの物差しを用いて様々な発達領域を測定することができます。
カート・フィッシャーやコモンズの測定手法が、一つの物差しを用いて様々な発達領域を測定することができる大きな理由は、それは発達現象に根ざす共通の発達パターンに基づいて構築されているからです。