今回焦点を当てる段階は、コモンズのモデルで言うレベル9(抽象思考段階)です。このレベルは、ロバート・キーガンの発達モデルでは段階3に対応し、慣習的段階と呼ばれます。最初に、レベル9の行動論理を簡単に列挙したいと思います。
・問題の一つの側面にしか焦点を当てることができない。
・問題を単純に二極化する、あるいは二分化する。
・行動、選択、パーソナリティを含め、それらを固定的なものと捉える。
・表明される意見が確定的であり、そこに不確実性や疑いの余地などが含まれていない。
・意見や行動が紋切り型であり、構造的に複雑な問題、あるいは構造そのものが不安定な問題を単純な構造の問題に置き換えようとする。
以上が、レベル9の一般的な行動論理であり、それでは実際の事例を見ていきたいと思います。
事例1:レベル9
A:「Bさんは、自分がすべきことをするべきだったと思います。仮に子供がいるのであれば、家族を顧みないことは多くの問題を生み出すと思いますが、Bさんは自分の選択した人生を歩んでいました。Bさんは、夫や子供とも上手くやっており、彼らに対する支援を惜しんでいませんでした。Bさんは、そうした生活に心底満足しており、プロフェッショナルとしてのキャリアを邁進しなかったことを全く後悔していません。どうしてBさんが全く後悔していないかというと、Bさんの友達で、Bさんとは対照的にキャリアを優先し、高い地位に就いているにもかかわらず、友達もほとんどいなくて孤独感を覚えている人がいるからです。」
分析
上記の発話事例の前半部分を見てみると、「自分で選択した人生VS自分で選択しなかった人生」という抽象的な対立構造が存在しています。また、「その友人は、自分のキャリアで成功している」「しかし、その友人は孤独感を覚えている」「たとえその友人が高い地位に就いているとしても」という三つの抽象的な命題が含まれています。
一般的に、レベル9では、抽象的な命題を生み出す能力があります。しかしながら、こうした抽象的な命題から生み出される最終的な主張というのは、ステレオタイプな意見や断定的な意見に留まります(例:「全ての人は〜」「全く〜ない」)。
事例2:レベル9
B:「ええっと、彼女は、夫や子供たちの世話をするために、自分のキャリアを邁進しないと決断したことが良かったことなのかどうか考えています。キャリアを邁進すると決めた人は、子供たちをあまり顧みないので、彼女はその決断が良かったことなのかどうか思いを巡らせているかもしれません。もし、彼女が良い人生を送り、夫や子供たちもそのように感じているのなら、キャリアを置き去りにして、夫や子供たちに尽くすことは価値のあることだと思っているでしょう。」
分析
上記の発話事例で着目するべき箇所は、「キャリアを邁進すると決めた人は、子供たちをあまり顧みないので」という部分です。これは、レベル9の思考方法で特徴的な「二極化思考」あるいは「二分法的思考」を表しており、過度な一般化をおこなっていると言えます。
この点において、上記のケースはレベル9にありますが、もう一つ注目するべきは、この事例は次のレベル10(形式的論理思考)への移行期にあるということです。下記の部分に形式論理思考が見られます。
1. 「キャリアを邁進すると決めた人」
2. 「子供たちをあまり顧みない」
1ならば2。
3. 「もし、彼女が良い人生を送り、夫や子供たちもそのように感じているのなら」
4. 「夫や子供たちに尽くすことは価値のあることだと思っているでしょう」
3ならば4。