ハーバード大学医学部精神科に在籍する発達心理学者のマイケル・コモンズは、認知的発達における「階層的複雑構造モデル」を提唱しました。セオ・ドーソンが開発したLASの中にも、コモンズの階層的複雑構造モデルが取り入れられており、今回の記事は、コモンズのスコアリングマニュアルを基に、事例付きでコモンズの発達段階モデルについて紹介したいと思います。
認知的発達に関して、コモンズは、0から14の合計15個の発達段階を想定しています(13段階と14段階は、到達している人間が少なく、サンプル数が少ないため、仮説的な段階となっています)。ロバート・キーガンの発達段階モデルに馴染みのある方がいるかもしれませんので、キーガンの段階モデルとコモンズの段階モデルを対応させると、下記のようになります。
レベル7(コモンズ):段階2(キーガン)
レベル8:段階2/3
レベル9:段階3
レベル10:段階3/4
レベル11:段階4
レベル12:段階5
それでは、いくつかの事例を通じて、コモンズの段階表記レベル7について見ていきたいと思います。まず、レベル7というのは、ピアジェで言うところの「前操作段階」と呼ばれ、具体的操作段階に至る一つ前の段階であり、まだ他者の視点を取ることができません。
それでは、レベル7の具体例として、8歳の男の子の会話事例を紹介し、簡単な分析をおこないたいと思います。
事例1
インタビュアー:「この前あったおもちゃはどうしたの?」
A:「うん、いとこがどこかに放り投げちゃったんだ。外の排水溝か道に落ちているに違いないよ。」
分析
A君は、質問に対して自分の見解を述べています。特に、いとこについて述べており、少なくともいとこが何をしたのか、その行為がおもちゃにどういった影響を与えているのか(おもちゃが見つからないこと)を考慮しています。
しかしながら、いとこが実際にしたこととおもちゃが見つからないという事実を関連付けているというよりも、論理的な飛躍現象が見られます。一般的に、具体的操作段階に移行する過程において、過度な一般化がおこなわれる傾向にあり、この会話事例においてもそうした過度な一般化が見られます。
もしかしたら、A君は、いとこのどんな行為に対しても非難するかもしれず、事実を関連づけて説明するだけの能力をまだ持っていません。
次の事例は、上記のレベルよりも少し高く、レベル7から8に移行している9歳の男の子の会話事例です。
事例2
インタビュアー:「友達が引っ越した時、どうしてそんなに怒ったの?」
B:「どうしてって、引っ越す前に言ったんだよ。引っ越さないでって。でも、あの子は、この一年間ずっと引っ越しの計画をしていたって言ってたんだ。」
分析
B君は、1+3=4というような、単純かつ具体的な論理関係に基づいて、発話をしています。確かに、B君は、友人が独自の視点を持っていることを認識できていますが、単に友人の発言に言及しただけであり、真の意味でその友人の気持ちや考え方を考えるというような点にまで踏み込んでいません。そのため、B君は、他者の視点を内面化できるレベル8の前段階にいると言えます。