人間の発達を学際的に考察するという試みのため、一連の記事のテーマが多方面に散逸していますが、ダイナミックシステム理論に関する質問を頂いたため、今回は再び、ダイナミックシステム理論の概観を眺めていきたいと思います。
まず、ダイナミックシステム理論は、非常に新しい学問領域であって、ここ20年以内に発達研究の中から生まれました。また、ダイナミックシステム理論の根幹は、物理学、数学、生物学、化学などにあり、特にイリア・プリゴジンやイザベル・スタンジェールなどが提唱した散逸モデルや非線形モデルに影響を受けています。
それらのモデルを基盤に、ダイナミックシステム理論は、エスター・セレン、カート・フィッシャー、ヴァン・ガートなどの先端的研究成果を基に発達してきました。
ダイナミックシステム理論は、システム的な観点を中心に、多様な概念を織り込むことによって、発達研究の進展に貢献してきました。例えば、「自己組織化」という概念が一例です。また、人間の発達に関して、遺伝的要素から始まり、脳内神経や社会的な要素などの相互関係を念頭に置きながら、複雑なシステムを考察している点が特徴的です。
それら複数の要素は、様々なレベルで相互に関係し合っており、それらはある種のパターンを構成する力を内在的に秘めています。例えば、ダイナミックシステム理論で特に有名なパターンの例は、「アトラクター」と呼ばれるある種の均衡状態です。
発達理論の観点から重要なこととして、ダイナミックシステム理論は、そうした均衡状態がどういった変数によって生まれ、システムがどういった要因によって均衡状態から脱却し、再び均衡状態へ至るのかというプロセスを質的・数量的に明らかにしたことにあります。これらの発見事項は、新たなスキルや知識を獲得する際に見せる均衡状態・脱均衡状態と関係して、発達理論のみならず学習理論にも大きな影響を与えました。
そして、先ほど紹介したダイナミックシステム理論に多大な貢献をした研究者、エスター・セレンの研究成果に触れておきたいと思います。エスター・セレンは、主に子供の感覚運動的発達に焦点を当てていました。特に、幼児がどのように歩行能力を獲得するのかについて研究をしており、よちよち歩きから安定した歩行能力の獲得という均衡状態へ、歩行から走行へという均衡状態に至るプロセスを明らかにしました。
最後に、ダイナミックシステム理論の根幹概念をもう一つ紹介すると、私たちの行動は、文脈や個人の発達史に基づいて、瞬間瞬間に再構築されるという考え方です。エスター・セレンは、私たちに備わるこうした動的な特性を音楽家の即興演奏に喩え、私たちの活動は、常にその瞬間に立ち現れている様々な要素と相互に影響を与えながら再構築されると述べています。
以上がダイナミックシステム理論の概観となります。質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。