これまで、オットー・ラスキーの教育機関IDMやセオ・ドーソンが設立した研究機関Lecticaにおいて、幸運にも様々な発達理論を学習する機会と発達測定をおこなう経験を積むことができました。
しかし、日本人が発達測定を受ける際に問題となるのは、測定で用いられる言語が英語だという点です。こうした問題を解決するべく、現在、日本語での発達測定手法を開発しようと試みています。
開発しようとしている測定手法の焦点は、主に企業における人材開発や人材マネジメント、特にリーダーの育成・管理にあります。現在の日本のビジネス社会を見渡してみると、そこには確かに性格類型テストや360度評価などの測定手法が存在しています。
そこで、今回の記事は、性格類型テストや360度評価などの「コンテンツ分析」と呼ばれる測定手法ではなく、開発を試みている「構造分析」と呼ばれる測定手法の必要性について言及したいと思います。
昨今、世の中では「業務の複雑性が増すに従い、リーダーはそうした複雑性に耐えうるだけの多様なリーダーシップ能力を養う必要がある」と叫ばれています。ここで、リーダーの性格や行動特性を明らかにするコンテンツ分析は、確かに多様なリーダーシップ能力を浮き彫りにしてくれます。
しかし、実際には、そうしたコンテンツ分析で可能なのは、リーダーシップの多様性の内、リーダーの行動特性あるいは性格類型を分類するだけであり、真の意味での多様性、つまりリーダー各人が持つリーダーシップ能力の深さや高度を測定することができません。
つまり、コンテンツ分析でわかるのは、リーダーの行動という目に見える形で示される現象です。しかし、実際のところ、私たちの行動を生み出す深層的な構造というものが存在しており、それは認知構造と呼ばれます。すなわち、コンテンツ分析は、その測定対象が表面的な行動に囚われてしまっているため、その奥に隠れる深層的なリーダーシップ能力の源泉まで探求することができません。
リーダーが何か経営上の問題に直面した時に、その対処方法にはパーソナリティだけではなく、その人が持つ深層的な世界観・世界認識方法が関係しています。そして、そうした世界観・世界認識方法は、心の発達と共に複雑性を増し、深まりを見せます。残念ながらコンテンツ分析では、問題の深さを認識する認知構造を測定することができません。
言い換えると、コンテンツ分析は、行動パターンの分析に終始してしまうため、問題発見能力の深さ、問題解決能力の深さ、チームをまとめあげ、導く能力の深さなどを蔑ろにしています。
経営学者のエリオット・ジャックスが指摘しているように、職務階層に対応して、高度な認知構造が要求されます。コンテンツ分析では、リーダーシップ能力のタイプ分類ができたとしても、リーダーシップ能力の階層構造(シニアマネジャー、ジュニアマネジャーなどに要求される認知構造など)まで明らかにすることはできません。
リーダーシップ能力の階層構造が分からなければ、要求されるタスクレベル、リーダーシップレベルを満たす人材を発見することを見逃してしまったり、要求されるリーダーシップレベルに至っていないにも関わらず、行動特性のみでリーダーの職務を任せてしまうリスクがあります。
リーダーとしての器を思い浮かべてみると、器のふたの部分を見ること、つまり表層的な部分の差異を明らかにするのがコンテンツ分析であり、容器そのものの容量、つまり業務の複雑性や要求されるリーダーシップ能力のレベルに耐えうるかどうかを測定するのが構造分析です。
性格的側面や行動特性において、一見するとリーダー足り得る人物も、実際にその職務に就かせてみると、その要求水準に押しつぶされてしまい、期待はずれに終わってしまうケースを見たことがあるのではないでしょうか?
最後に、構造分析をすることによる人材育成・人材管理上のメリットについて言及したいと思います。人材開発をする上で、まず目指すべき能力の特定をおこなう必要があります。つまり、どういった能力を持ち、どういった階層のリーダーシップ能力を獲得したいかという、いわば目標を設定することが第一です。
この時に、目標とするリーダーシップ能力の種類と階層構造(認知構造)がわかっていれば、それに到達するまでの進捗管理を適切におこなうことができます。例えば、シニアレベルで要求されるリーダーシップ能力のレベルが分かっていれば(最初にターゲットする職務階層にいるリーダーたちに測定を受けてもらい、そこで要求されるタスクレベルをまず設定する)、リーダーシップ研修の成果を適宜測定し、定期的にメンタリングをおこなうなどの手法を積極的に取り入れることで、目標までの到達を容易にします。
つまり、構造分析が持つ人材育成・人材管理上のメリットを要約するならば、これまで目に見なかったリーダーシップ能力の構造的特性を可視化し、可視化することによって、次の階層のリーダーシップ能力を養う際のトレーニング計画や進捗管理をより精密におこなうことが可能となります。 質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。