top of page

52. 領域特定型発達モデルの誕生とその限界


カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論は、あらゆる発達領域において適用できる測定の物差しを提供したため、「領域全般型発達モデル」と呼ばれます。それに対して、ロバート・キーガン、オットー・ラスキー、スザンヌ・クック=グロイターなどの発達理論家は、ある特定の発達領域に焦点を当て、その固有の領域に対する理論的枠組みと発達測定を提示したことから、「領域特定型発達モデル」と呼ばれています。

今回の記事は、領域特定型モデルの誕生背景について言及し、このモデルが抱える限界点について説明したいと思います。発達理論の歴史を紐解くと、1980年代後半から1990年代にかけて、古典的な段階モデルの限界が明るみになり、さらに発達の可変性を示す研究成果が世に出されるようになり、既存の段階モデルは理論的な破綻の危機にさらされていました。

実際、チョムスキーの普遍的言語構造モデルを除き、古典的な段階モデルは当時、代替的な説明モデルなしには信頼性の高い研究をすることができなくなり、多くの研究者から見放されつつありました。そこで登場したのが「領域特定型発達モデル」です。

このモデルは、発達プロセスを普遍的な認知構造に還元することはないのですが、空間能力、言語能力、数学能力、論理能力、問題解決能力など、特定の領域内で通用される能力を生み出す発達構造というものが存在すると主張しています。これらの領域内に存在する構造は、しばしば「モジュール」と呼ばれ、実際の活動と切り離されて用いられがちです。

教育分野において、この領域特定型発達モデルは有名です。特にハワード・ガードナーの多重知性論などが代表的であり、ガートナーの領域特定型発達モデルは、世界中の学習カリキュラムに広く取り入れられるようになっています。

領域特定型発達モデルは、発達や学習において鍵を握る特定の能力領域に着目し、発達理論や教育分野に多大な貢献を残しました。しかしながら、領域特定型モデルを支持する多くの発達理論家は、特定領域を記述することに留まり、発達が内在的に持つ可変性にまで踏み込んで議論することはありませんでした。

つまり、領域特定型モデルの支持者は、認知活動を領域局所的に説明することに終始し、領域横断的な特徴や領域間の関係性について説明することはないのです。要約すると、領域特定型モデルの支持者は、発達の可変性の存在を認めながらも、それを体系的に説明することを意識的あるいは無意識的に避けているのです。その点が領域特定型モデルの大きな限界です。 質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。

過去の曲の音源の保存先はこちらより(Youtube)

過去の曲の楽譜と音源の保存先はこちらより(MuseScore)

bottom of page