発達理論のフィールドにおいて、心の構造を静的なものとみなしてしまう思想モデルをこれまで紹介してきました。これらの理論的枠組みを細分化すると、下記の三つの静的構造モデルに分類することができます。
一つ目は、ピアジェの発達段階モデルです。ピアジェの発達段階モデルにおいて、認知構造を一つの形式として規定し、人間の活動はそうした形のある構造によって規定されてしまっています。つまり、ピアジェの段階モデルは、人間の多種多様な活動を認知構造という定まった形から生み出されるものとしています。
より詳しく述べると、発達段階の成長過程を連続的なものとみなすピアジェの段階モデルは、様々な文脈における活動を一様に決定づける一つの構造が存在することを主張しています。ピアジェは、こうした構造を「普遍構造」と呼んでいます。また、発達段階は文脈によって何ら影響を受けないと想定されています。
二つ目のモデルは、多くの言語学者や認知科学が採用している理論的枠組みです。このモデルにおいて、人間の活動は、あらかじめ定められた論理的な規則に基づいて生み出されるとされています。例えば、チョムスキーが提唱する生得的な言語構造は、このモデルの典型例です。
三つ目のモデルは、多くの経験論的心理学者が採用している理論的枠組みです。このモデルでは、人間の活動は線形的な入力・出力規則に基づいて生み出されるとされています。ある意味で、人間の心がコンピューターのように扱われ、ある情報が入力されれば、その入力に対して自動的に出力が決定されると想定されています。
すなわち、人間の心を入力と出力が一対一で対応するコンピューターに還元してしまう理論モデルです。このモデルの典型的な例は、統計学を駆使した心の説明モデルや情報処理モデルなどです。
興味深いことに、上記三つのモデルは互いに反目し合っているのですが、根幹を成す思想はどれも静的な構造モデルに由来します。つまり、自己組織化的な特性を持つ人間の活動と心の構造を完全に切り離してしまっているのです。
結論として、これらのモデルは、人間と環境を切り離してしまい、決して両者がお互いに影響を及ぼし合う「動的な協働者」とみなされることはないのです。
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