これまでいくつかの記事で、他者の支援が発達にもたらす重要性を指摘してきました。過去の発達理論家の功績を辿ってみると、他者の支援が認知的発達にもたらす効果について異なる見解が存在することがわかります。
まず最初にヴィゴツキー派の見解について、彼らは学習者(子供)と熟練者(大人や専門家)との相互作用の重要性を強調していました。より具体的には、他者との相互作用によって、私たちは新たなスキルを獲得し、間主観性(他者との間で共有される意味)も発達していくとされています。
それに対して、ピアジェ派の見解は、ヴィゴツキー派と少し異なる点に焦点を当てています。ピアジェ派は、他者との間で生み出される認知的な不和・対立に重要性を置いています。
ピアジェ派の思想において、私たちは他者の異なる視点・観点を内面に取り入れることによって、認知的な不均衡状態を生み出すとされています。そのような不均衡状態が生み出されることによって、私たちは新しい均衡状態を生み出そうとし、認知構造を再構成し始めます。
ヴィゴツキー派とピアジェ派の思想において、他者との相互作用が発達を促進するという大きな主張はほぼ同じです。しかし、ピアジェは、大人との相互作用によって子供はしばしば大人の権威に屈し、それは認知構造の再編成を阻害してしまうと述べています。
つまり、ピアジェは、大人が子供に対する介入をそれほどポジティブなものと捉えていなかったのに対し、ヴィゴツキー派は逆に、大人の介入が子供の認知的発達を促すと捉えていました。
ヴィゴツキー派とピアジェ派の相違点を踏まえて、MITの研究者ニラ・グラノットは、実際にどういった種類の相互作用が学習者の認知的発達に有益かを調査しました。言い換えると、グラノットは、闇雲な介入的支援は百害あって一利無しということを明らかにし、どういった種類の相互作用が発達を促す触媒として機能するのかを研究によって明らかにしました。
グラノットは、支援者側の知識・経験の量と学習者の知識・経験の量の差異、そして支援者の介入度合いに応じて、9つのタイプの介入方法を提示しました。学習者の知識と経験に応じて、それら9つから適切な介入手法を選び、介入度合いを見極めなければ、学習者の発達を阻害する要因になってしまう危険性があることをグラノットは指摘しています。
先ほどのヴィゴツキー派とピアジェ派の視点は重要な洞察を含んでいますが、どちらも若干極端な見方です。グラノットが指摘するように、熟練者の介入が常に発達を支援するわけではないので、ヴィゴツキー派の視点には盲点が含まれていると言えます。また、支援者と学習者との知識・経験量の幅を見極め、適切な介入度合いを選択すれば、それは発達を支援することにつながるため、ピアジェ派の見方も極端だと言えます。
結論として、単純に他者との相互作用が発達を牽引する役割を担うわけではなく、グラノットの研究が明らかにしたように、私たちは学習者と支援者との間に存在する二つの変数を考慮に入れなければなりません。それらは上記で見てきたように、一つ目が、学習者と支援者との知識・経験量の差異であり、二つ目が、支援者側の介入度合いです。
これら二つの変数を理解し、適切な介入手法を選び出す知恵と経験を兼ね備えた支援者が求められると思います。 質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。