私たちが文脈を通じて発達する生き物であるということに関して、アメリカの知覚心理学者ジェームズ・ギブソンの功績を忘れることはできません。ジェイムズ・ギブソンは、環境が私たちの知覚と行動に与える影響(アフォーダンス)を最初に研究した人物として有名です。
ギブソンは、人間の知覚を認知の最も基本的な機能として捉えていました。私たちは、環境を知覚することによって情報を得ます。環境から知識と情報を引き出すという観点から、知覚とは認知的機能の一形態であり、知覚の対象領域が拡大し、そこから得られる情報の機微や複雑性が増していくことが、認知的発達だとしています。
ギブソンは、物理的な環境が私たちの知覚に与える影響を指摘したことに加え、社会的な環境が私たちの知覚に与える影響も指摘しました。物理的な環境がもたらすアフォーダンスとは、例えば、私たちが椅子を見つけた際に、それは座るものであるという情報を得、実際に座るという行動を引き起こします。
一方、物理的な環境のみならず、社会的な環境も私たちにアフォーダンスをもたらします。例えば、社会的に制定された規則などは、私たちの日常の知覚と行動に大きな影響を及ぼします。
このように、ギブソンは、物理的・社会的な環境が私たちの知覚と行動にもたらす影響を明らかにし、周りの環境が発達と密接に関わっていることを指摘した人物です。また、ギブソンの書籍を読んでいると、彼もまた、文脈に応じて変動する人間の思考と行動に着目していたことがわかります。
一見すると同じに思える環境において、個人の思考や行動は、実に多様な側面を見せるとギブソンは述べています。これは、環境からのアフォーダンス機能が各人様々であり、一人として同様の情報を同じ環境から引き出すことはできないことを示唆しています。
ギブソンの理論は、構成主義的な発達論者が抱きがちな、社会的現実世界は私たちの認知によって構築されているという発想に揺さぶりをかけてくれます。逆に、社会的現実が私たちの認知を規定するという考えにも疑問を呈してくれます。
ギブソンの思想に触れると、私たちはそもそも社会的かつ環境的な存在であり、リアリティは認知と環境が織り成す関係性によって生み出される産物であるということを思い出させてくれます。 質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。