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25. ダイナミックスキル理論における「最適レベル」と「機能レベル」とは?


これまでの記事で何度か登場した「最適レベル」と「機能レベル」について、もう少し説明を加えたいと思います。心の構造を静的なものと捉えてしまうこれまでの発達理論のパラダイムには、ある一つの根本的な誤りが存在します。それは、私たちは一つの固定的な構造レベルを持っており、それを領域全般あるいはある特定の領域において等しく発揮しているという考え方です。

しかし実際のところ、私たちは、異なる文脈や感情状態において、多岐にわたるスキルレベルを発揮します。どうして動的なスキルレベルを発揮するのかというと、一つには、私たちは変化する状況に絶えず適応しようとするからです。この点を考慮すると、ある特定の領域においてでさえ、私たちは同様のスキルレベルを発揮することはないのです。

非常にダイナミックなスキルレベルを発揮するもう一つの理由は、新たな状況、関わる人々、新たな問題に対処するために、自分のスキルを常に再組織化する能力を私たちは兼ね備えているからです。上記の一つ目の能力は、環境適応能力と言い換えることができ、二つ目の能力は、自らを文脈に応じて再創造するというより積極的な能力です。

何かスポーツをされている方なら、ある日とても調子良くプレーできていたのに、睡眠不足やフィールドの状態、あるいは対戦者が誰なのかによって、別の日のプレーの質が大きく変化するということを身を持って経験しているのではないでしょうか。この具体例は、私たちが持つスキルの変動性を見事に表しており、私たちは刻一刻と変化する状況に応じて、無意識的に発動させるスキルレベルを変化させます。

このように文脈に応じて変動するスキルレベルには、大きく分けて二つの種類があります(さらに細かく分類すると、三つ存在しますが、ここでは大きな分類を紹介致します)。

一つ目が、「最適レベル」と呼ばれるものであり、これは他者や環境からのサポートによって発揮することができる、自分が持っている最も高度なパフォーマンスレベルのことを指します。もう一つが、「機能レベル」と呼ばれるものであり、これは他者や環境からの支援になしに発揮することができる最も高度なスキルレベルのことを指します。

そして、カート・フィッシャーは、両者のスキルレベルの間に存在する溝(ギャップ)のことを「発達範囲」と呼んでいます。この発達範囲という考え方は、ヴィゴツキーの「最近接発達領域」という概念とほぼ同じです。

私たちは日常ごく当たり前に、スキルが持つ変動性を経験しているのではないでしょうか。先ほどのスポーツの例で言うと、指導者から手取り足取りある技術を学んでいる最中は、非常に高度なスキルを発揮できていたのに、いざ一人でその技術を試してみると、さきほどできていたことが巧くできなかったりします。さらに、疲労やストレスなどを感じながらプレーをしている場合、そこで発揮されるスキルは「機能レベル」を大きく下回ることになります。

フィッシャーがおこなった研究は、最適レベルと機能レベルは少なくとも一段階の違いがあり、年齢を重ねるごとに両者の差が拡大していくということを示しています(この現象が示唆している、成人以降の発達支援の重要性についてはこちらの記事で指摘致しました)。スキルが内包するこのような変動性は、文脈に根ざした私たちの活動の本質を明らかにしています。

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