ダイナミックシステム理論の代表的な研究者であるヴァン・ガートは、学習支援者(発達支援者)と学習者との間で構築される学習プロセスという一つのシステムにおいて、三つの変数を提唱しました。
前回の記事で紹介したように、一つ目は学習者の発達速度であり、二つ目は学習者の現在の学習段階と目標とする学習段階との距離です。そして、最後の変数として、学習者の発達に対する学習支援者の適応度合いを挙げています。
学習者の発達に対する学習支援者の適応度合いとは、一言で述べるならば、学習者の微細な発達現象をどれだけ的確に見極め、それら微細な発達に対してどれだけ柔軟な対応(支援)ができるかということです。
ここで述べている発達というのは、何も上昇的な発達現象だけを指すのではありません。カート・フィッシャーが明らかにしているように、発達とは向上と退行を繰り返すプロセスであるため、下降的な発達、つまりスランプ現象や伸び悩み現象にも等しく目を向ける必要があります。
私たちは何かを学習する際に、常にスキルが向上しているわけではなく、時に後退しながら、さらに高度なスキルを獲得していきます。そのため、学習・発達支援者は、こうした退行・後退現象に対しても敏感な感性を保持している必要があります。
ヴァン・ガートは、学習・発達支援者が、発達が内在的に持つ「進展」と「後退」という対局的かつ微細な現象に対してどれだけ敏感な感性を持ち、そうした現象に対してどういった介入を具体的におこなうかが、学習者の発達過程に与える重要な変数になると指摘しています。つまり、学習という動的なプロセスにおいて、指導者の役割は極めて大きいと言えます。
指導者は学習者の動的な発達プロセスにおいて鍵を握る変数である以上、学習者にとって、どういった指導者を選ぶかということは重要な課題となります。しかし、往々にして学習者と指導者との出会いは、一種の巡り合わせのような側面もあり、学習者にとって、自ら指導者を選択することは難しい場合が多いでしょう。
そうであるならば、学習・発達支援という場において、発達という微細かつ複雑な現象に対して敏感な感性を保持する指導者を育てる文化やシステムを築き上げることは、時代が要請している一つの大きな課題だと思います。
仮にそのような感性を養うことが困難であるとしても、発達現象に対する理解を促進する枠組みを指導者に提示することは十分可能だと思います。それが発達理論というモデルが果たす役割の一つです。
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