カート・フィッシャーが提唱したダイナミックスキル理論の根幹を成す「ダイナミックシステム理論」は、人間の心という一つの有機的なシステムのみならず、現実世界に存在する諸々のシステムについて多くの洞察を提供してくれます。
ダイナミックシステム理論を人間の発達研究に応用した人物として、元ミズーリ大学教授のエスター・セレンとオランダのフローニンゲン大学教授のヴァン・ガートが特に有名です。
今回の記事では、ヴァン・ガートの理論・研究成果の一部を紹介したいと思います。ヴァン・ガートは、私たちの学習プロセスを一つの動的なシステムと捉えました。ダイナミックシステム理論の観点を用いると、学習・発達支援者(コーチ、セラピスト、人材育成者、教師、インストラクターなど)の適切な介入の重要性が浮き彫りになってきます。
教えること・学ぶことという一つの学習プロセスにおいて、学習者の現在の学習段階を正確に測定し、測定結果に基づいた介入的アプローチを施せる力量を持った教育者が今後より一層求められてくると思います。
ダイナミックシステム理論を学習プロセスに適用する際に、二つの概念が大切になります。一つは発達の速度であり、もう一つは学習者の現在の学習段階と目標とする学習段階との距離です。
一つ目に関して、私たちの発達速度は、各人様々であり、すでに獲得している知識や経験、さらには対象領域によって異なります。学習支援や発達支援をおこなう者にとって、支援される側の発達速度を適切に見極める必要があります。発達速度を見極めることに関して、発達測定は重要な役割を果たします。
主な理由としては、発達測定によって、学習者の発達速度を客観的に測定することが可能になるからです(極めて精緻な発達測定であれば、発達の形すらも明らかにすることができます)。
ここでより重要なことは、支援者が支援される者と共に設定する学習目標によって、支援される者の発達速度が変化するという事実です。つまり、学習目標の設定如何によっては、学習が適切に進む場合もあれば、学習が滞ってしまう場合もああります。すなわち、学習プロセスという一つの有機的なシステムにおいて、支援者が設定する学習目標が、支援される者の発達速度の牽引力となり、彼らの発達に大きな影響を及ぼします。
学習目標を設定することがもたらす牽引力に加え、学習者の既存の学習段階と設定目標との距離を適切に測定することも求められます。どうして両者の距離を測定することが大切になるかというと、学習者の既存の学習段階と設定目標が遠すぎたり、近すぎたりする場合において、設定目標が学習の牽引力として機能しなくなってしまうからです。ヴァン・ガートの研究結果は、この点を明らかにしています。
学校教育という場はもちろんのこと、組織における人材育成や人材管理の場においても、発達速度と学習者の既存の学習段階・発達段階と目標とする段階との差を見極めることが強く求められるのではないでしょうか。
発達理論と発達測定は、発達速度と現在の段階と目標とする段階の差を明らかにする説明モデルとメソッドを私たちに提供してくれるため、それらの重要性は今後より高まってくると思います。
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