発達を階段状あるいは梯子上のプロセスとみなしてしまう伝統的な発達理論とは異なり、スキルは構成的な網の目構造を構築しながら発達していくというカート・フィッシャーの考え方は、スキルが持つ多様な発達過程やそれが動的に構築されていくという側面を見事に反映しています。
網の目を構築するとういうのは、まさに自己組織的なプロセスに他ならず、私たちはこうした自己組織的なプロセスの中で、スキルを差異化し、新たな要素を組み合わせながら、さらに複雑かつ高度なスキルを獲得していきます。
とりわけ、他者や環境との相互作用と感情状態が編み目の構造に与える影響は多大です。ある特定の文脈において他者と交流することは、私たちの思考と行動を変化させ、その場で発揮されるスキルの構造レベルを動的に変化させます。
また、環境から受けるフィードバックも私たちのスキルレベルを大きく変動させる要因となります。さらに、刻一刻と変化する私たちの感情状態もスキルレベルに多大な影響を与え、私たちは一瞬たりとも全く同じ編みの目の構造を保持することはできません。つまり、私たちのスキルが持つ網の目構造は、感情状態や他者との相互作用、そして状況や文脈に応じて常に変化します。
スキルが持つ上記のような特性を踏まえると、ある個人が単独で自分のパフォーマンスレベルを最大限に引き出すには、自己の感情状態との向き合い方が大切になると思います。
感情状態を広義の意味で捉えると、それは意識状態と言い換えることができます。究極の意識状態を手に入れること、あるいは意識を変容させることを命題とする思想は、しばしばケン・ウィルバーのインテグラル理論を信奉するコミュニティやトランスパーソナル心理学を探求するコミュニティに垣間見ることができます。
しかしながら、中国唐代の禅僧である南泉普願が「平常心、それが道(タオ)である」と述べているように、私たちは意識を変容させることに主眼を置くのではなく、いかなる文脈においても平常心を保ち、意識状態を整えるということが、安定したスキルレベルを発揮する条件となります。
意識の変容状態や高次元の意識状態を獲得することに目を奪われがちですが、そうではなく、平常心をいかに維持するかに価値を置いても良いのではないでしょうか。
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