カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論で用いられる発達測定手法は、ローレンス・コールバーグ、スザンヌ・クック=グロイター、ロバート・キーガン、オットー・ラスキーらが提唱している領域特定的な発達測定手法と特徴が異なります。
確かにダイナミックスキル理論では、ある特定の文脈において発揮されるスキルの発達を測定するため、その測定手法は領域特定的とみなされがちですが、実際のところ「領域一般的」あるいは「領域普遍的」な測定手法と言えます。
測定手法のメカニズムは少し複雑なのでもう少し説明すると、ローレンス・コールバーグの測定手法はモラルの領域に焦点を当てており、モラルの領域以外にその測定手法を用いることはできません。
スザンヌ・クック=グロイターの測定手法だと自我の領域、ロバート・キーガンの測定手法だと主体・客体の認識領域、オットー・ラスキーの測定手法だと社会的・感情的発達領域と認知的発達領域というように、これらの発達論者が構築した測定手法は、必ずある一つの発達領域に的を絞り、その領域内での発達現象のみを測定していきます。
それに対して、ダイナミックスキル理論で用いられる測定手法は、特定領域に縛られることなく、あらゆるスキル領域の発達現象を測定することが可能です。どうしてそのようなことが可能になるかというと、どんなスキルもそれが発達する際に、共通の発達パターンを持っており、ダイナミックスキル理論の測定手法は、そうした共通のパターンを測る物差しを備えているからです(現在、メンターとしてお世話になっているセオ・ドーソンが開発したLASという測定手法は、ダイナミックスキル理論を適用しており、LASも領域一般的な特徴を持っています。また、LASが採用しているもう一つの理論的枠組みである、マイケル・コモンズの「階層的複雑性モデル」も領域一般的な特徴を備えています)。
発達測定をさらに精緻なものとするためには、活動の中で見られる可変性を適切に測定する共通の物差しが求められます。多くの発達測定手法の問題点とは、共通の物差しを持っていないということに加え、恣意的な尺度を採用してしまっていることにあります。
それらは、発達測定が規定する特殊な文脈の中で発揮される能力だけに着目し、果たしてその能力が他の文脈においても同様に発揮されるのかということを無視してしまっています。こうした問題意識から、カート・フィッシャーは、測定手法が生み出す特殊な文脈に囚われず、多様な文脈において発揮される様々なスキルを測定する共通の物差しを構築しました。
次回以降、共通の物差しに含まれる尺度について少しずつ説明したいと思います。質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。