イリヤ・プリゴジン(散逸構造理論)、マンフレート・アイゲン(ハイパーサイクル理論)、ハーマン・ハーケン(シナジェティクス理論)などの第二世代のシステム理論家が提唱した「自己組織化」という概念は、私たちの心の構造が生み出すスキルの発達を説明する際に大切になります。自己組織化とは、端的に述べると、自ら秩序を持つ構造を生み出す現象のことを言います。
例えば、雪の結晶が作り上げる幾何学的な模様やDNAという秩序だった構造を生み出す私たちの細胞も自己組織化の一例です。さらに経済学においても、ポール・クルーグマンなどが自己組織化する都市の成長モデルを提唱していたり、進化経済学の領域においては、商品・技術・制度などを含め、市場経済そのものが自己組織化の産物であると考えられています。
このように現実世界の様々な現象において自己組織化の例を見つけることができます。カート・フィッシャーは、それらの例に加えて、私たちのスキルは自己組織化すると提唱しています。
スキルが持つ文脈依存的な特徴に加えて、スキルは秩序を持つ構造を生み出し、自らを再組織化するという機能を内在的に持っています。スキルが持つこのような自己組織化的な機能は、スキルそのものを維持することを超えて、新たなスキル・より複雑なスキルを獲得することに貢献します。
私たちは、個人的な活動や他者との相互作用によって、スキルを生み出し、それを維持しています。つまり、スキルの構築と維持は、自己統制的な側面と他者との相互作用を通じた統制という二つの側面を兼ね備えています。私たちの身体を例にとると、激しい運動をすれば、エネルギーや酸素の消費量が増加し、それは呼吸量や代謝量の増加をもたらします。
ここでは、運動するための筋肉系と呼吸器系・代謝系が相互に作用し、身体全体のシステムを統制しています。
スキルにおいても同様に、スキルを構成する要素間で相互に統制し合い、全体のスキルを一貫性のあるものに保つという現象が見られます。こうした現象が示唆しているのは、私たちがある特定の文脈において発揮するスキルは、決して固定的なものではなく、常に文脈に適応しようとする自己統制機能を備えた活動であるということです。
自己統制・相互統制を通じて、私たちのスキルは質的に新たな構造を生み出し、そのプロセスはあるパターンを持っています。
ダイナミックスキル理論では、スキルが持つそのような発達パターンを明らかにします。可変性の裏には、秩序だった成長パターンが隠されており、そうした成長パターンは複雑な階層構造を持っています。次回以降、具体的にカート・フィッシャーのダイナミックスキル理論が持つ発達測定尺度について紹介したいと思います。 質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。