カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論を理解するためには、ダイナミックスキル理論の基になっているシステム理論について理解を深める必要があります。今回は、リビングシステムに見られる動的な構造について紹介したいと思います。
生物的・心理的・社会的を問わず、全てのリビングシステムは、適切に機能するように組織化されています。仮にある生命体が適切に組織化されていないのであれば、その生命体は死滅してしまうでしょう。
同様に、組織化されていない社会は荒廃し、組織化されていない心は日々の生活の中で徐々に病んでしまうでしょう。システム理論家は、リビングシステムの活動を適切に維持し、システム内の要素を結びつける特質のことを「構造」と呼んでいます。
システムが構造化され、組織化されるというのは、システム内の要素・サブシステム・プロセスが特別な関係を持つことを示しています。例えば、人間の身体は呼吸器系・消化器系・代謝系・神経系などのシステムを持ち、生命体を健全に保つために、それら全てが相互依存的な関係を築き、適切に機能しています。
同様に、経済システムや政治システムなどにおいても、社会が適切に機能するために相互依存的な関係を維持しています。このように、相互依存的な関係が存在するところには常に動的な構造が見られるといっても過言ではありません。
リビングシステムが適切に機能するためには、単に組織化されているだけでは不十分です。単に組織化されているということを超えて、リビングシステムは動的である必要があります。システムを適切に機能・維持させるためには、システムは絶えず活動し、変化することが求められます。もしシステムが静的であり、刻々と変化する状況に適応できなければ、そのシステムは消滅してしまうでしょう。
つまり、生物的(身体)・心理的(心)・社会的(経済・政治・教育・エコロジーなど)なシステムが状況や環境に適応していくためには、必然的にシステムが動的なものである必要があります。
フィッシャーが発達理論の分野に残した功績は、人間の心を動的なリビングシステムと捉えたことです。つまり、私たちの心は、他者・環境・社会システムなどと相互依存的な関係があり、そうした関係を通じて私たちの行動や思考が生み出されます。そして、それらのシステムが本来的に動的なものであるため、私たちの心も必然的に動的なものとして、絶えず活動に従事し、変化していきます。
さらに、リビングシステムの他の特徴として、「自己制御的」かつ「自己組成的」という点が大切になります。どういうことかというと、システムは自分自身を適切に維持するために、システムを構成する要素やそれ自体を統制する特徴を持ちます。また、システムは自分自身を自立的に再編成する特徴を持っています。
これらの特徴は、システムに見られる可変性を見事に説明しています。もしシステムが静的なものであれば、システム自身は変化しないはずですが、実際のところ、システムは絶えず活動に従事し、変化しているため、システムは動的なものであると言えます。システムが複雑であればあるほど、システム内の構造は複雑になり、可変性の度合いも増します。
人間の心は、自分自身が持つ身体システムと相互依存的な関係を持つだけではなく、他者・環境・システムなどとも有機的につながっているため、システムとして非常に複雑な構造を持っています。そのため、人間の心が持つ動的な特質や可変性を蔑ろにしてしまうことは、大きな問題を孕んでいると言わざるを得ません。
次回の記事では、発達が持つ可変性と質的差異(レベル)および発達の網の目構造について紹介したいと思います。
質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。