麹町アカデミアで担当させていただいている「発達測定編」のゼミナールで、発達支援の具体的な手法について議論していく予定なので、発達支援の際に重要になる概念「橋渡し(bridging)」について簡単に説明したいと思います。橋渡しという概念は、元々テキサス大学助教授のニラ・グラノットという研究者が提唱したものです。
橋渡しという概念を一言で述べるならば、それは「次なる発達段階・学習段階を暗に示す標識の骨組みを構築するプロセス」のことを指します。現在の発達段階を超えて次の発達段階に発達することは、未知なる領域に足を踏み入れるのと同じで、その足取りはおぼつかないものです。
しかし、橋渡しというプロセスを経て、次なる発達段階へ至るための標識を構築していれば、その足取りはより強固なものとなります。発達支援者や学習支援者がこの標識を構築する手助けをすることによって、学習者は次の発達段階に向かって歩みを進めることができます。
また人間の心を一つの動的なシステムとみなす観点からすると、この橋渡しというプロセスは高次な発達段階を吸引する力を発揮し、本来不安定である高次な発達段階を比較的安定的なものに保つ働きをします。橋渡しは、対象とする知識領域・スキル領域において高次な知識・スキルを構築するための外堀を築き上げる役割を果たし、それは対象とする文脈に根ざした実際の活動を通じて「発達の動的な吸引力」として機能します。
ニラ・グラノット、カート・フィッシャー(ハーバード大学教育大学院教授)、ジム・パーツィアーレ(ボストン大学教授)は共同論文の中で、橋渡しはあらゆる年齢において生じる発達現象であると述べています。橋渡しはもちろん個人で生み出すことができますが、上記の研究者たちは社会的な相互作用の中で、つまり他者を通じた橋渡しの重要性を強調しています。
ここで専門家、教師や親の役割が大切になります。学習者が対象とする知識やスキルに精通した専門家、子供であれば教師や親が、学習者が次の発達段階・学習段階に移行できるように適切に介入する必要があります。つまり、専門家や教師・親の大切な役割は、学習者が既存の知識やスキルを未知な領域に橋を架けれるように手助けをすることです。
橋渡しの具体的な手法としては、代表的なものを二つ紹介いたします。一つ目が「言葉による橋渡し」です。これは、発達支援者・学習支援者が学習者に対して、次なる発達段階へ至るための標識役を果たす「一つの言葉(あるいは概念など)」を提示してあげることを言います。学習者は投げかけられた単一の言葉(あるいは概念)を基にして、次の段階への歩みを始めます。
二つ目が「型の提示による橋渡し」です。武道などにおいてよく「守・破・離」の重要性が説かれている通り、まずは型の習得が学習において大切になります。その型を提示してあげることを「型の提示による橋渡し」と呼んでいます。
コーチングにおいて、あるいは学校のクラス内において、支援される者・子供たちに言語的な介入をするのであれば、型の提示は例えば「もし〜」「・・・そして(それから)〜」という文章を提示し、彼らに「〜」の部分を埋めてもらえるように支援をしてあげることです。「型の提示による橋渡し」が決定的に重要になる理由は、それが現在欠けている知識やスキルを暗に示す役割を果たすからです。
提示される型は対象領域のアウトラインとして機能し、興味深いことに学習者はほぼ無意識的に現在欠けているものを埋めようとする試みを始めます。例えば学術論文や企画書などを作成する時に、アウトラインがあれば、それが探求を促す役割を果たし、自然とアウトラインに埋まる知識が構築されていくという経験をされている方も多いかと思います。
以上が「橋渡し」という概念の簡単な説明です。質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。