1032. 深い森よりも深く
森閑とした辺りに、姿の見えない鳥の鳴き声がこだまする。フローニンゲンの街は夜の九時を迎えたが、まだ闇の世界が訪れていない。 今日は一日中曇り空であったため、この時間帯の空模様がより鬱蒼としたものに見える。しかし、闇の世界に今にも入ろうとする世界の中で、姿の見えない鳥の鳴き声...
1028. 辻邦生著『パリの手記』を読み終えて
書斎に鳴り響くベートーヴェンの力強い交響曲とは打って変わって、今の私はとても神妙な気持ちに包まれている。たった今、昨年の夏に日本を離れる直前から読み始めていた、辻邦生先生の『パリの手記』全五巻を読み終えた。 私が米国での最初の二年間に陥った精神的な危機に再び陥ることを避ける...
1017. 新たな朝の習慣
いよいよ本日から五月に入った。五月を迎えたにもかかわらず、朝夕はまだ暖房をつけて過ごしている。 今朝も足元が冷えていたため、暖房をつけた。このところ、これまで以上に、生活の一部として音楽が浸透しているように思える。あるいは、生活としての音楽がそこにあるように思う。...
1009. さらなる下積み期間を求めて
食卓の窓から見える景色が随分と春らしくなった。それを象徴するのは、今目の前の広場に咲き誇っているタンポポだ。 真夏の太陽よりも鮮明な黄色を発するタンポポがついに姿を見せてくれた。食卓の窓から見える広場は、小さなタンポポ畑になっている。...
1005. 円周率の不思議と円の中の縁
早朝、一杯の水を飲み、いつものように身体を動かすことから一日を始めた。ここ最近は、モーツァルトの交響曲を聴きながら身体を動かしている。 その際に、書斎の外を眺めるのではなく、壁にかかったニッサン・インゲル先生の二つの絵画作品を眺めながら身体を動かすことが毎朝の儀式的な実践と...
1003. 哲学の力と概念の力
なぜだか私は、ベートーヴェンのピアノソナタ第17番の第3楽章が始まるといつも仕事の手を止める。意識を向けようとせず意識がそこに向かうのだ。 『テンペスト』と呼ばれるこの曲、特に第3楽章は、必ずその存在を私に訴えかけてくる。そこに意識が向かう時、それが第17番の第3楽章である...
1000. 霊感と天啓
昨日、グレン・グールドのベートーヴェンピアノソナタ全集を聴いていた。全てのピアニストが個性を持っているがゆえに、各人の演奏は個性的なのだが、グールドの演奏はひときわ個性が際立っているように思える。 私はある時期に、グールドが演奏するバッハの曲を好んで聴いていたことがある。だ...
996. 本当の歓喜へ向かって
先ほど無事に“Principles of Systems Science (2015)”を全て読み終えることができた。本書を読むのは今回が初読であり、細部を丁寧に追っていくという読み方ではなく、全体と重要な箇所のみを把握していくという読み方を採用していた。...
995. 生きることは奏でること
生きることは奏でることである。そのことを教えてくれるような夢だった。 カントのせいにしたくはないのだが、昨夜の夢の始まりは、夢の中で私が受講している授業が退屈極まりないという感情を引き起こすものだった。昨夜の就寝前に、カントの“Critique of Judgment...
994. 再びカントへ
昨日の夕方、カントの “On Education (1899)”を読んだ。この書籍は分量は極めて少ないが、最初から最後までを通して読み直したのではなく、自分が関心を持っているテーマだけを取り上げて読み返した。 カントが最終的に向かった先は、内なる自由の尊重とそれを育むための...